
収入が増え、所得税の負担を減らしたいと考え始めたことをきっかけに、不動産投資に興味を持ったという人もいるのではないでしょうか。検討のきっかけは節税でも全く問題ありません。しかし、所得税の節税だけを目的にして不動産投資を始めた人の多くが目的を達成できずに失敗しているという事実があることと、その背景にある失敗する理由を理解せずに不動産投資を始めると、後悔する可能性が高まるでしょう。
本記事では、不動産投資で節税できる仕組みに加えて、なぜ所得税の節税のためだけに不動産投資を始めるのがNGなのかを解説します。失敗を避けるためのポイントも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
不動産投資が節税になる仕組み

不動産投資をすると主に「所得税・住民税」と「相続税」の節税につながります。
どのような仕組みで不動産投資をすることによって税金の負担が抑えられるのかについて解説します。
所得税・住民税の節税
不動産投資をして、所得税・住民税を節税するためには、まず、不動産所得が赤字になっている必要があります。例えば、不動産所得が100万円の赤字の場合、不動産所得は事業所得や給与所得と損益通算が可能なため、課税所得を100万円減らすことができ、所得税率23%・住民税率10%(課税所得が695万円以上900万円未満)の人であれば、23万円の所得税・10万円の住民税の節税につながるというというのが大まかな仕組みです。不動産所得で赤字を出すと、同じ所得控除にあたる、iDeCoや生命保険料控除などと同等の節税効果が期待できます。
ただし、不動産所得を赤字にできたとしても、節税できた金額以上に手元の収支がマイナスになってしまっては、節税に取り組む意味がありません。
手元収支はプラスなのに不動産所得は赤字という状態になる理由の1つは、「減価償却費」を経費計上するためです。不動産投資における減価償却費は、建物の経年劣化に伴う価値の減少分を数値化して経費として計上する、いわゆる「帳簿上の費用」です。帳簿上の費用は、実際の手出しが発生する費用ではないため、不動産所得の金額と実際の収支に差が生まれます。つまり、不動産投資で所得税・住民税の負担を軽減するためには、帳簿上の費用である減価償却費がいくらであるかが鍵となります。
ただし、不動産を活用した所得税・住民税の節税を検討する場合には、下記の4点に注意が必要です。
不動産価格の全額を減価償却できるわけではない
減価償却が可能なのは、建物部分(躯体と設備)のみのため、不動産価格のうち土地分は減価償却できません。
構造や築年数に応じた期間に分割して減価償却費を計上する
償却年数(何年に分けて減価償却費を経費計上するか)は下記の計算式で求めることができます。
償却年数=(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2
例えば、築7年のRC造のマンションの場合、躯体部分の法定耐用年数は47年のため、41年にわたって少しずつ減価償却費を計上する仕組みです。償却期間が長くなるほど、節税効果は低くなります。築浅のマンションに投資する場合などには、不動産の購入にかかる諸費用を支払う初年度以外は全く節税にならないケースも珍しくありません。
売却時に想定外の譲渡所得税が発生する場合がある
不動産を売却して得た利益には『譲渡所得税』がかかります。譲渡所得税の金額は以下の計算式で求めることができます。
譲渡所得=収入金額(売却価格)–(取得費+譲渡費用)
上記の取得費は、不動産の購入代金やリフォーム費用などの合計額から、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算するため、減価償却費を計上すると、その分、売却時の取得費は低くなります。そのため、購入した金額よりも低い金額でしか売れなかった場合でも譲渡所得税がかかることがあります。減価償却費を計上し、節税効果を得られたとしても売却時に多く譲渡所得税がかかることになります。
経費として認められるのは不動産投資にかかる費用のみ
不動産所得の経費として計上できる費用にはルールがあり、不動産投資と全く関係ない飲食費や交通費・宿泊費などを経費にすることは認められません。
経費として認められる費用とそうでない費用については過去記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
https://www.ge-creation.co.jp/column/keihi/
https://www.ge-creation.co.jp/column/kouzyo/
相続税の節税
投資用不動産を活用することで、相続税対策になる理由は、現金系の資産や有価証券は額面で課税されるが、不動産は土地が路線価、建物は固定資産税評価額で計算することで相続税評価額が低くなるためです。
現金を不動産に変えることで20~30%、それを他人に貸すことでさらに20~30%相続税評価額を低くすることができます。
手元の現預金が多くある人の場合、現預金で投資用不動産を買うだけで、相続税評価額を3分の1程度に圧縮できるケースも珍しくないため、高い相続税の節税効果が期待できます。
「節税」「売却」「相続」に向く不動産の違い

投資用不動産を活用した節税を考える場合、節税に向く不動産と出口で有利な不動産の違いを理解しておく必要があります。
不動産投資の出口は主に「配偶者や子らへの相続・継承」もしくは「他者への売却」の2種類です。それぞれに向く不動産にはどのような特徴があるのか見ていきましょう。
所得税・住民税の節税に向く不動産の特徴
投資用不動産を活用して所得税・住民税の節税をするには、「1年当たりの減価償却費を大きく計上できる不動産」を選ぶ必要があります。1年当たりの減価償却費を大きく計上できる不動産には、「売買価格に占める建物部分の価格が大きい」「償却年数が短い」という2つの特徴があります。
減価償却が認められているのは売買価格のうち建物部分のみであるため、減価償却費を大きく計上するためには、土地の価値が低い不動産を選ぶ必要があります。
例えば、東京23区内の土地(土地分の価格8,000万円)と路線価の設定がないような田舎の土地(土地分の価格500万円)に、全く同じ2,000万円の建物があるとします。前者の売買価格は後者の4倍ですが、減価償却費として経費計上できる金額は同じになるため、少ない投資金額で同等の節税効果が得られる後者の方が効率がよいのです。
償却年数に関しては、前述のとおり数十年かけて償却していてはほとんど節税が見込めないため、短期で償却できる不動産のほうが所得税の節税に向いています。最も償却期間が短いのは耐用年数を超過した木造の不動産で、4年で償却を終えることができます。ただし、節税に向く不動産を選んだ場合、立地が悪い、建物の耐久性が低い、自然災害リスクが高いなどのリスクが高まってしまうため注意しましょう。
相続税の節税に向く不動産の特徴
どのような不動産でも、現金で相続する場合と比べて20%程度、相続税評価額が低くできるため、相続税対策になります。そして、その不動産を他人に貸している場合はさらに相続税評価額を圧縮できます。さらに、土地の面積に対して戸数が多いと一戸あたりの土地面積が小さくなり、土地の相続税評価額も低くなるため、戸建て住宅や低層アパートよりも、戸数の多い中・高層のマンションのほうが土地の相続税評価額が低くなりやすい傾向にあります。
売却に向く不動産の特徴
売却に向く不動産とは、リセールバリューの高い不動産、つまり将来的に高く売れる不動産です。投資用不動産のリセールバリューは立地、構造、築年数、管理費・修繕積立金額、家賃などで決まります。リセールバリューの高い不動産には、都心のワンルームマンションなどがありますが、先述の節税に向く不動産とは大きく異なる特徴と持ち、節税に向く不動産は売却には向かないことがほとんどです。
リセールバリューの高い不動産の特徴については、過去記事で詳しく解説していますので、併せてご参加ください。
https://www.ge-creation.co.jp/column/column-5640/
相続に向く不動産の特徴
不動産を相続に活用する場合、子が相続する時期に価値が見込める不動産でなければいけません。子が相続してからも家賃収入が期待できる不動産など、売却に向くリセールバリューの高い不動産に近い特徴を持ちます。
また、相続前提として不動産投資を始めるのであれば、分割しやすい不動産を選ぶという視点も大切です。1戸の不動産を複数人で相続するとその後の売却や相続などでトラブルが生じやすいといわれています。そのため、例えば3人の子どもに相続させたいのであれば、7,500万円の1棟アパートを1棟購入するよりも、2,500万円の単身者向け区分マンションを3戸購入した方がよいでしょう。
節税を目的に不動産投資を始めた人が失敗しやすい4つの理由

節税を目的に不動産投資を始めてしまうと、失敗する可能性が高いのには4つの理由があります。
節税に向く不動産は売却や相続には向かない場合が多いから
2段落で解説したとおり、節税に向く不動産と売却や相続に向く不動産はまったくの別物です。
特に節税向くといわれる築古不動産は、減価償却を終え、売却しようとしても、新たな買主が住宅ローンを利用できない場合が多いため、現金で購入できる人など買える人が限定され、売却の難易度が非常に高いといわれています。土地の価値が低い物件などはそもそもの需要が低く購入希望者が現れない可能性もあります。そして、先述のとおり、減価償却費を計上すると売却時の取得費を下げることになるため、うまく売却できたとしても、節税できた金額以上の譲渡所得税が発生する可能性もあります。特に5年以内の売却で譲渡所得金額がプラスになった場合には約40%(所得税30.63%+住民税9%)もの譲渡所得税がかかるため注意が必要です。
相続の場合も同様で、所得税の節税に向く不動産を購入してしまうと、相続時には物件から見込める利益よりも維持や処分にかかる費用のほうが高くなる負動産と化している可能性が考えられます。
投資用不動産は所得税の節税には向いていないから
中・長期目線で不動産投資を行うのであれば、長期的に高い賃貸需要が見込める不動産を持つ必要がありますが、そのような不動産は数十年かけて減価償却を行うことが多く、土地分の価値も高いため、1年当たりで経費計上できる減価償却費も少なく、所得税の節税に向きません。また、不動産投資で利益が出て不動産所得が黒字になれば、その分所得税も増えるため、節税という目的には合わなくなります。多額の減価償却費を計上して、手元の収支は黒字だが帳簿上は大きな赤字、といった状況を作ることはまずできません。
短期目線で築古の木造不動産に投資するケースでは、非常にリスクが高い投資であり、出口の売却や相続の難易度が高くなることを想定しておく必要があるでしょう。さらに、計上した減価償却費は売却時の取得費から差し引かなければないため、節税後に運よく高く売却できたとしても、節税できた所得税よりも多くの譲渡所得税を支払うことになるケースも存在します。
税制度は年々変化しているから
今は節税できるかといって、10年後、20年後も節税できるとは限りません。近年でも、税制改正によって、タワーマンションや海外不動産、ドローン、コンテナなどの減価償却資産を活用した節税スキームなど、ある手法が流行すると、それらが次々と封じられてきた歴史があります。
不動産投資に限らず、いつまで可能かわからない「節税」のみを目的に投資を始めることは避けた方がよいでしょう。
そもそも所得税の節税が必要な人は多くないから
収入が増えると、給与天引きされる金額も増え、税金が高いと感じ、節税を意識し始める人もいるでしょう。
しかし、大前提として、一般的な年収の会社員であればそもそもリスクをとって所得税の節税を考える必要性が高い人は多くありません。例えば、年収1,000万円の人でも支払っている所得税の金額は年間80万円程度です。このくらいの金額であれば、iDeCoや生命保険料控除、住宅ローン控除など国が認めている基本的な節税策を網羅するだけで、納税額を半分以下にできるケースも珍しくありません。本当に大きなリスクをとって節税すべき状況にあるのかよく考えてみましょう。
不動産投資で失敗しないために必要なこと
最後に、不動産投資で失敗しないために押さえておきたい3つのポイントを紹介します。いずれも失敗を避けるには欠かせない内容ですので、物件を購入する前によく確認するようにしてください。
自発的に不動産投資について勉強する
上記で紹介した『物件売却の難易度が不動産によって異なること』など、不動産投資には知っていれば軽減できるリスクは多くあります。そのため、自発的に不動産投資について勉強をしておくことはとても大切です。
ジーイークリエーションでも不動産投資に関するセミナーを行っていますので、何から勉強すればいいのかわからないという方は、ぜひご活用ください。また、セミナーでは実際に投資用マンションオーナーが出演し、生の声を聞くことができます。どのように考えて不動産投資を始めたのか、体験した失敗談、どんな物件を選んだかなどこれから始める人やすでにお持ちの方にも参考にしていただける内容となっています。
https://www.ge-creation.co.jp/seminar/
出口を想定して不動産投資を始める
本記事でも紹介したように「売却」や「相続」という出口を想定し、「売却しやすい」「相続しやすい」不動産を購入することで、不動産投資で失敗する可能性を軽減することができます。想定する出口に合わせた不動産選びを徹底しましょう。
信頼できるパートナーを見つける
不動産投資は誰から買うか、どんな会社に管理を任せるかで成功確率が大きく変わってきます。「不動産投資で節税できますよ」「会社員では出せない経費を出せます!」など耳あたりのよいことばかりをいって不動産を売ろうとする人ではなく、リスクやデメリット、その回避方法なども含めてしっかりと説明してくれるような人を見つけ、サポートを得ながら不動産投資をするのが失敗を避けるポイントです。
出口から逆算した投資計画を立てよう
節税に向く不動産と売却や相続に向く不動産は異なります。そのため、売却にも節税にも向くような不動産は滅多にありません。目先のメリットばかりに目を向けるのではなく、出口から逆算した投資計画を立て、不動産投資の成功確率を高めましょう。
ジーイークリエーションでは、今回解説した不動産投資以外にも、生命保険の見直し、NISAやiDeCo、年金対策、相続税対策など、幅広い相談を受け付けています。個別相談をご希望の方は下記のフォームよりお申し付けください。
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